08.現場の町づくり
内容
1.都市デザイン事始... 1
2.「町をつくる力」をつくる... 4
3.「町をつくる人」になる... 6
4.自治体プランナー... 6
5.プランナーの資質と宿命... 11
6.町づくりをみんなの手で!... 13
7.やってみよう会議の方法序説... 13
8.やってみようワークショップ... 14
8.資料編... 14
1.都市デザイン事始
(都市デザインを考えるためのチャート)
みせ
うち - しきち - みち - まち +ひと・とき
みず
みどり
(私的領域) (共有領域) (公的領域)
※都市構成要素の4つの「ち」、4つの「み」、2つの「と」をしっかり関係づけることが、都市デザインの基本。
・
▼では、自治体の現場をいくつも経験(東京都、名護市、世田谷区)した原昭夫さんの『自治体まちづくり-まちづくりをみんなの手で』(学芸出版社)から引きます。/「まちづくり」という言葉が、それまでの「都市計画」や「都市開発」といった言葉に代わって、1970年代ぐらいから使われはじめ、いまようやく私たちの身の回りの環境を保全・革新・創出していくことを考え、実践していく言葉として、頻繁に使われるようになってきました。▼ただ、この「まちづくり」という言葉をいま一度考えてみるために、中学校で習った英文法になぞらえると、「まち」とう目的語(O)と「つくる」という動詞(V)はあるものの、だれが「つくる」という行動や実践をしていくのかという、その主語(S)が示されていません。一体だれが「まちづくり」の主語になるのでしょうか。それは「あなた」です。あなた、そして私たちです。ここでの話は、主語になるための話が中心になります。
▼まちづくりの時間/地域や都市の歴史およびその蓄積は、地域や都市の姿やイメージを特徴づける。歴史的な都市を訪れたときに感ずる、あの何とも悠々たる思いは、都市に流れてきた「時間」の長さと、そこを「通過」する私たちの人生の時間の短さを改めて教える。こうした「歴史的時間」のほかにも、地域や都市は様々な時間を持ち、またそれに拘束されたりもしている。それらの時間をいくつかに分類してみると。
《ロング》
・百年/「百年の体系」とも言うように、「計画」を考えるなら、時には百年スパンぐらいで考えたい。百年かけて町並みをつくり出していくことを宣言し、その事業に取り組み始めている町もある。山形県最上郡金山町の「町並みづくり百年運動」が知られている。
・七十年/コンクリート建物の耐用年数に相当する(但し、『いまコンクリートが危ない』という岩波新書もある)。公共建築を含めて、日本の建築物は用を足さなくなると、老朽建物として取り壊されてしまう。うまく使い続けていくという手法も、「循環社会」をめざすなら開発していきたいものだ。
・三十年/一世代の年数である。世代間のギャップが深まり、また核家族時代になって世代から世代への文化伝達も、都市社会の中では難しくなっている。多世代の人々による「地域共同社会」の回復も長い時間が必要だ。
《ミドル・ショート》
・二十年/自治体の「長期計画」や「都市計画マスタープラン」などの目標年次とされている。生まれた子供が成長を重ねて、成人として大人扱いをされるまでの時間。
・十年/「十年ひと昔」と言われるが、自治体の事業、特にまちづくりに関する事業は、企画・構想から実現まですぐに十年は経ってしまう。十年辛抱強く一つのことに取り組むことが、まちづくりには必要なのかもしれない。「線引き」などの都市の将来を考える時間でもある。
・四年/自治体の首長や議員の任期である。それより長い時間を要するまちづくりは、この間に公約や政治的目標の実現をはかろうとする首長の時間と、うまく折り合いながら進めていかねばならない。「自治体まちづくり」の一区切りの時間ともいえる。
・一年/自治体の「単年度主義」による事業や予算の持つ時間である。この単年度のリズムを刻みながら自治体は動いていく。まちづくりの方針や事業の担当者はあまり頻繁に変えないで、まちづくりを進める体制が大切であろう。
自治体のまちづくりにおける「時間」を振り返ってみると、上述したような四年ないし一年という短いスパンの繰り返しということが多いが、「都市づくり百年の大計」を視野に入れて、都市の成長管理やエイジングということも考えながら「時間計画」「ステージプラン」「整備プログラム」といった「時間的調整計画」をもっと考えてよいでしょう。
▼「地図」。フィールドワーク「現地主義のすすめ」という面では、「地図を好きになる」ことです。地図になれるには、記号や縮尺を理解することです。そんなに難しくない。5千分の1とか、1万分の1とか、2500分の1という縮尺の数字に出会ったら、まず分母の数字の末尾の0(ゼロ)を二つ取る。それにm(メートル)をつけると、それがその地図での1センチを示す距離(長さ)となる。先の例で言えば、それぞれ1センチが50m、100m、25mとなる(地図参照)。ですから地図にスケールがついていない場合は、自分の手を使う。例えば手を広げた時の親指化小指まで何センチになるか(20センチ)、握りこぶしは何センチになるか(8センチ)を予め図って覚えておくと、地図上の距離を測りたいときに役に立つ。▼これらを「ボディ・スケール(身体尺度)」といいますが、自分の体の各部の寸法を知っておくと、町の大きさ、例えば道幅や歩いた距離などを知る上で便利なことがある。伊能忠敬(1745-1818、江戸時代の商人・測量家)の「測歩」の精度には及ばないまでも、街区の大きさやまちの拡がりを体感できるようにしておくと、町歩きもさらに興味が湧きます。
▼フィールドワークの七つ道具/①地図(道路図、地形図、施設分布図、交通図など、その地区をめぐるときに便利なもの各種)、②筆記用具(水に濡れても滲んだりしない色鉛筆も便利)、③小さなノート(野帳、見つけたいろいろなこと、聞き取ったことなどを書きつけておく)、④磁石(あれば曇りや雨の時は便利だが、これがなくても方位を見つけるカンも養っておく)、⑤コンベクス(スチール巻尺、5メートルくらいいのもの、しかしボディ・スケールをうまく使うのも大切)、⑥カメラ(デジカメ記録もいいが、まず自分の眼でじっくりみるのが基本)、⑦手ぬぐい(歩いて汗をかき、ワークが終わったら、見つけた銭湯でひと風呂浴びる)。その他、時計、財布、雨具、飲料なども加えて、歩きやすい服装が用意できたら、さあ町へ。▼自転車で巡る/フィールドウォーク、タウンウォッチング、路上探検、町歩きなどでカバーする範囲より、もう少し広い範囲の調査をやる時は、やはり自転車が便利だ。また、歩いて調査する場合でも、まず初めは自転車で広い範囲を回っておくと、歩いて回るフィールドワークも効果が上がる。自転車は時速8~20キロの緩急自在、カバーする範囲も1~100ヘクタールという中域性、細い道路にも入り込める末端侵入力、階段や歩道橋なども担げば渡れる軽量性など、便利な交通手段である。まちづくりの道具として見直そう。
▼さて、実際に「まちをつくる」については、大学での都市政策講義のようなことや、自治体での都市計画やまちづくりなどの実践的なことについては、今回省きます。でも、たとえば項目だけでもいくつか挙げると、こうなります。人口推計、土地利用計画、道路計画、公共施設計画、都市デザイン、面的整備、緑地計画などなどです。▼ここでは「都市デザイン」(図1参照)だけを少し覗いてみましょう。
▼都市デザインとは、一つの建築物や施設を美しくつくるということだけでなく、それらを関係づけて形態的な秩序を与え、時間をかけて総体的に美しく快適な環境をつくっていく術であると言える。それは、自治体のまちづくりにおいてもしっかりした技術として蓄え、魅力ある市街地づくり、美しい街並みづくり、しっとりとした集落づくりなどへの手法として、みんながもっておきたいものである。▼都市デザインというものを「もの」の関係づけをしていくこと、「もの」同士の調整をしていくことだと理解するなら、その仕事は「デザイナー」といった特殊技能やデザイン能力を持った人だけの仕事ではなく、自治体職員なら誰もが持つべき「関係構築力」「調整力」の延長にある一つの仕事と言える。▼都市の物的要素とその関係づけは上図のとおり。▼この都市デザインという手法をさらに広げ、地域の基盤としての土地、地形、植生、水文、気候、さらにはそこに生息する生物、人々の営み、土地利用、歴史なども含めて全体の環境をつくっていくことが「風景づくり」という仕事である。
▼古人は「借景」といった手法で遠くの山々やランドマークを敷地や建物にうまく取り込んで、敷地と周囲の関係を巧みにつくっていった。今なら、公園を造る時に、遠方に富士山(日高山脈)が望めるならばその軸線(ビスタ:見通し、眺望)を大切に生かして苑路や広場の設計に取り入れたり、日の出や日の入りの陽光が射してくる場所であればそれをうまく取り込むなど、周りの環境の状況を十分調査して、その風景を引きこむことも施設づくりにおいては心がけたいことである。町づくりにおいても、「風景」に思いを馳せながら、現代の街並みづくりやランドスケーピングに取り込みたいものです。
2.「町をつくる力」をつくる
(1)「まちを知る」「まちを学ぶ」という段階
①広報、まちづくりニュース、お知らせ、ホームページ/まちづくり事業や施設建設が始まる前には、自治体の広報にそのお知らせが載ったりする。これで住民は何が始まるかを知ることになる。一方的ではあるが、情報公開の第一段階である。ですから盛り込むべき内容、計画や事業のねらい、集会の呼びかけであれば日時や場所などを把握し、当日参加して住民としての思いをしっかり伝えること。最近はインターネットで公開されことも多い。
②説明会、公聴会、まちづくり集会/これらは、直接住民に呼びかけ、会場に来てもらい、広報より詳細な説明を事業関係者が図面、スライド、パンフレット、この頃はパワーポイントなどで行っている。まちづくり事業や施設建設の権利者や利害関係者を対象に、地域を限定して行うもの、まち全体に関わる課題を広域的に説明するために行うものなど、その対象によって規模や呼びかけ範囲は異なる。主催者側の注意点は、専門用語を避けて分かりやすい話し方が必要だし、参加者側は自分の利害だけに拘らず、参加者全員の意見がまとまっていけるように運営することが大事である。司会者はそのカギを握る。(⇒会議の方法は後述)
③講演会、講習会、研修会、シンポジウム/やり方としては、講師の話を聞くという一方通行、受け身の性格のものとなるので、質問時間を十分にとったり、終わってからアンケートの記入を求めたりして、双方向、相互通行になるように主催者側は配慮すべきである。
④まちの探検、タウンウォッチング、オリエンテーリング、ウォークラリー/話を聞いたり、本で学ぶだけでなく、実際にまちへ出て、自分の足で、自分の眼で、まちの姿をとらえ、まちの今の生の課題を知ろうとするものです。ですから楽しさやゲーム性を考えて、まちを発見する喜びなどもあるような工夫をするとよい。
(2)「まちを考える」「まちの姿を提案する」という段階
①アンケート/▼自治体のまちづくり施策が一方的にならないよう、施策の形成過程において人々の意見を聴取して反映させていこうという公聴型の参加手法の一つである。最近はインターネットの意見募集などもある。
②提案、意見書提出/身近なまちづくりについて、地域のゴミなどの環境問題でもよいから、意見・提案として担当部署に送ってみたらどうだろう。自治体側もその提案をクレームとして無視せず、町づくりの種として使わせてもらうくらいくらいの対応が必要だし、もちろんその善後策について返事をすべきである。
③まちづくり協議会/多くの自治体では、まちづくり地区を定めて、住民や関係者が主体となった「まちづくり協議会」をつくって、住民・関係者・専門家・自治体が地区の課題を解決や将来方向の検討に取り組んでいる(中心市街地活性化など)。具体的事業を伴うので、利害調整・意見調整が難しい。協議会の運営を公平・中立に行うことが大切であるから、信頼を得た事務局や案を的確にまとめる専門家が欠かせない。
④審議会・委員会等への参加・傍聴/例えば都市計画審議会などでは、その構成メンバーは議員、学識経験者、行政職員に限られ、そこでの審議は非公開が原則とされてきたが、しかし地域住民が計画の審議にまったく参加できないというのは、今の時代に合わなくなり、都市計画法の一部が改正され、審議会の傍聴、議事録の公開などができる様になってきた。
⑤請願・陳情・議会や委員会の傍聴/紹介議員の有りの請願と紹介議員なしの陳情の二つがある。古風な用語だが、この手続き・権利をもっと行使してよいのではないか。議会の委員会において提出された案件を審議し、採択、不採択、継続審議などとなるが、その審議内容を傍聴するのも参加の一つの形である。
⑥クレームや紛争処理から学ぶ/夢のある町づくりばかりの提案ばかりでなく、建築紛争や環境紛争などネガティブな課題の処理や調整ということも自治体の仕事である。公的には紛争調停委員会や建築審査会などが法令のバックアップを受けて、その審査や調停に当たっている。また法的根拠は薄いが各種の建築相談、市民相談、困りごと相談の中にも、まちづくりの課題として処理すべき問題が多数含まれている。
⑦反対運動、○○を考える会/建築紛争や環境紛争がやや大きな地域に影響を与えるものになると、その地域では署名が集められ、反対運動が組織される。開発反対、道路計画反対、歴史的環境保全要求、迷惑施設の建設反対、学校の統廃合反対、大規模店舗の立地反対など、多様なテーマに対して、様々な立場の声が上がる。解決が難しいものが多いが、そこから学ぶことも多い。
⑧まちづくりモニター/まちづくりについて、自治体から委嘱を受けて、施策の効果や、新たな取り組みの方向を助言するものである。公募することもある。
(3)「まちをつくる」という段階
①まちづくりコンクール・アイデア募集/前述の「提案・意見提出」よりも、もう少しルールやテーマを定めて、意見やアイデアを公開で募集するものである。
②コンペティション、設計競技/コンペティション(コンペ)は、建築物・公園・博覧会場・施設・街区・住宅団地・地域など、より具体的なテーマについて、プランナーや建築家などの専門家を対象に計画案や設計案を公開で求めるものである。
③専門家派遣・専門家との共同/住民と自治体のとの連携でまちづくりを進めるためにも、専門家派遣のうまい仕組みづくりに取り組む意義は大きい。首長の任期を超えて、10年以上の単位で見守ってもらう専門家の確保が大事である。そうすれば都市全体の動きとその施策効果を判定できる。
④まちづくりファンド、ボンド、トラスト/▼まちづくりの初動期を支援するために「まちづくりファンド」あるいは「まちづくりボンド」がある。例えば、東京都世田谷区では、市民セクターのまちづくりを人的・資金的に支援するために1992年に「まちづくりセンター」を都市整備公社の中にスタートさせ、そこに「まちづくりファンド」という基金を用意し、その運営を信託銀行に委ね、毎年数十件のまちづくり活動を応援している。そこで取り組まれるテーマは、みどり、福祉、環境、大規模道路、高齢者、子供、建物保存、交流、マップづくりなど多様で、役所が考える狭義の町づくりの枠をはるかに超えて奥深い。
⑤ワークショップ/参加者全員が共同作業、水平討論をして、あるテーマを考え、掘り下げ、ある解答を皆で探しあてるというやり方がある。(⇒後述)。▼町づくりは、共同作業・共同思考・共同作品なのです。
⑥自力建設、自主管理/まちづくりの中で必要となった施設の建設は、自治体や地域が建設会社や工務店に工事を委託し、完成後地域の人々が利用する、というのが一般的である。しかし、この施工という実際にモノを作る部分に、地域の人々や利用者が参加して、手足を動かし汗を流して、たとえ一部分であっても参加することができたら、もっと「自分たちの施設」「おらがまち」という愛着がわくのではないのか。▼具体例では、手作りタイルを歩道に埋めたり、グリーンパークの4百mベンチなどの例がある。
3.「町をつくる人」になる
(1)「人づくり」より「人になる」
▼「まちづくりとは、モノをつくることではく、結局人づくりなのだ。人ですよ、人」。町づくりの議論の最後によくこうした発言が出会います。でもこれは楽天的ですね。再びS(主語)+V(動詞)+O(目的語)の文法をあてはめると、誰が人をつくるのか、という主語が問題になる。「人づくり」という言葉は、どうも「私」という当事者であるべき主体が、町づくりという行為の外にいて、誰かがそれを担ってくれるような響きがするし、また「人をつくる」というと何となく横柄な感じもする。であればなおさら、まちづくりや地域づくりを大切なことと考え、そこでの人の存在や人同士のつながりが重要であると気づいた人、まず「あなた」が町づくりを進める人になってしまったらどうだろうか。「人づくり」に頭を悩ませて、地域づくりがなかなか進まないことを外野席に座って嘆いているより、へたくそでもまず自分がグランドに飛び込んで、泥んこになってゴロを拾いまくる方が、事は早そうだ。汗みどろでノックの向かっているうちに、となりでゴロを拾う人が現れたり、トンネルしたボールを拾いにバックアップに回ってくれる人が出てきてくれるかもしれない。こうして「人になる」人が増えていくと、街づくりは生き生きしてくるはずだ。「町づくりを行う人」になってしまおう!
(2)まちづくりの様々な主体
▼まちづくりに関わる人々は、住民・利用者から始まり、民間プランナー、研究者、学識経験者、民間事業者、自治体職員など多岐にわたりますが、自治体職員にスポットを当てて考えてみます。
4.自治体プランナー
▼町づくりには、次の12則(「まちづくりに取り組むあなたへ」)が大事と考えます。これは皆さん方が、仕事をするときにも応用もできますから、覚えておいてください。
(1)計画感覚を磨け
・プランニングセンスを自らの中に蓄えよう。そのために資料、データの集積を意識をもって行う。
・町に起こっている現象の観察・把握・分析そして課題の抽出をしっかりやる。
・「事務担当者」に留まるな。仕事は「事務」や「義務」でやるな。あなたは「プランナー」なのだ。
・政策化能力を磨け。自治体の町づくり人(マン)は、都市問題評論家や路上観察ウォッチャーでない。課題の解決の提案を行なったり、まちづくり政策をつくるのが仕事。政策化する力を養おう。
・常にまちのことを考えよう。自分の地域で起こっていることはもちろん、他の都市や地域で起こっている事象などにも関心をもって、原因や経過などを見ておこう。
(2)町へ出ろ、町を歩け、町を見ろ!
・現場主義、即地主義で、とにかく町へ出て行って、町を見ること。
・同じ場所に何度でも行く。町は朝昼晩そして季節によって姿を変える生き物だ。一回行っただけでは不十分。
・フットワーク、フィールドワークが大切。市民や議員から連絡があったら、できるだけ早いうちに現地へ出かけて、懸案事項を見ておく。偉くなったから「現場は職員任せ」ではいけない。
・寄り道、回り道をせよ。通勤途上、あるは現場からの帰り途、今までの経路とは違う道を通って他の場所を見ておく。ひとつ手前の駅で下車して他のルートを通りながら職場へ行くといったことをやったり、同じ駅からの道でも毎日ルートを変えてみる。少なくとも昨日のルートとは違う行き方をするなどをやってみると、違った発見があるかもしれない。
・街を見るいろいろな目を養うのが大切。地域を見るときに、住み手の目、つくり手の(プランナー)の目、よそ者(ビジター)の目の三つの「複眼」を持つこと。トンボの眼です。
・自転車で回れ。現地へ飛んでいく、現地を面的にじっくり見て回るという時に自転車は最適な交通手段。自転車の持つスピートとスケールをうまく使おう。
▼【宮本常一】と、ここで宮本常一(1907-1981民俗学者)の父の言葉を思い出した。町を知る・調べるにはとてもいい十か条が載っているので、紹介します。『旅する巨人』(佐野愼一・文藝春秋社)からです。▼宮本常一は、勉強のため16歳で大阪へ出る。大正12年(1923)山口県周防大島を離れる際に、貧農で教育を受けることのなかった父・善十郎は息子に十カ条のメモをとらせた。まず一番目は、汽車に乗ったら窓から外をよく見よ。田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、駅へついたら人の乗り降りに注意せよ、どういう服装をしているか、どういう荷物をもっているかに気をつけよ。その土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。二番目は、村でも町でも新しく尋ねていったところはかならず高いところへ登って見よ。山の上で目を引いたものがあったら、そこへは必ず行って見ることだ。三番目、金があったらその土地の名物や料理は食べておくのがよい。その土地の暮らしの高さが分かるものだ。四番目、時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。五番目、金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬよう。六番目、私はお前を思うように勉強させてやることができない。だからお前に何も注文しない。すきなようにやってくれ。しかし体は大切にせよ。三十歳まではお前を勘当したつもりでいる。しかし三十歳すぎたら親のあることを思い出せ。七番目、ただし病気になったり、自分で解決できないようなことがあったら、郷里へ戻って来い。親はいつでも待っている。八番目、これから先は子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならない。九番目、自分でよいと思ったことはやってみよ。それで失敗したからといって親はせめはしない。十番目、人の見残したものを見るようにせよ。その仲にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。
(3)都市の出来事に興味・関心を持て
・都市に生じている現象、姿、人々の動き、形、そこで起こる様々なことに興味・関心を持って、それらを見ておけ。
・「好奇心」こそ原動力。ものごとの原因・背景・動機などを考えるイマジネーションを養おう。
・他のまち、むら、しま、地域を訪ねよ。大都市の課題と小地域の課題はポジとネガのような関係。様々な地域を訪ね、そこの課題を知り、「第三者の目」で地域を見る力を鍛えよう。
・人々と交流せよ。他の地域を訪ねた時に、だた風景を眺めてくるだけでなく、そこの人々と語り、交流することが大切。「地域を内側から見る」ことができると、その地域への関心や愛着も深まる。
(4)「地域型」で仕事を進めろ
・「地域」こそ自治体の基本単位。地域ごとの課題、地域の個性や特色をうまく引き出して町づくりへつなげていくことが大切。
・また一つの地域でうまくいったこと、解決できた課題があったら、それが他の地域へも応用できるか、伝達できるかも考えよう。
・「小さな単位」を大切にしよう。小さな単位、小さな要素の積み重ねで町はできている。大きな枠組・構造づけを考えていくとともに、小さな単位・要素も大切にして、全体と個の関係をつくっていく。
(5)市民との共同をはかれ
・「市民参加」のそこでの進み具合、熟度、経過などの流れをしっかり理解しておくことが大切。それまでの取り組みや失敗なども記録し、伝達していくことが、まちづくりのステップアップにつながる。
・情報公開も欠かせない。どんな目的で、どんな意思決定のもとに、どんな経過でこの地区のまちづくりが進んできたのか、時間が経ち、住んでいる人々も入れ替わり、自治体の担当者も異動してしまうと、それらが不明になにならないように、これまでの「町づくりニュース」をファイルしたり、それらがいつでも閲覧できるようにしておくなど、情報の整理と公開がしっかりなされていることが、まちづくりへの信頼を増す。
・「御用聞き」ではいけない。「市民参加」といっても、何でもご要望は承ります、おっしゃって下さったことは何でもやります、というものではないはず。市民と自治体との役割と責任を双方がしっかり認識しながら、しっかり議論を重ねていくことが大切。
・地域の大学や学校とも連携・連動する。地域に建築・環境・デザイン・福祉・農業・商業などの学科を持つ大学・専門学校・職業高校などがあれば、まちづくりの生の課題をそれらの学校と共同して学び、解決策を考えていくこともできる。また小中高校の環境学習、総合学習のプログラムの中に、まちづくりを入れ込んでいくことも考えたい。
(6)皆で仕事をせよ
・一人だけ、事業担当者だけで仕事をするな。まちづくりの仕事が多様・多量・多忙になってくると、その仕事は担当者が決められ、彼または彼女一人がそれを行うということになりがちだ。そこで出てきた課題や悩みを組織全体で考え、方向づけて、その方針のもとに担当者が仕事を進めていく、という組織での仕事のやり方をつくり出していくことが大切。
・チームワーキング(共同推進)。現在小中学校では複数の先生が一つの教室で授業を行うというチームティーチング(TT)が始まっている。それに倣って一つのまちづくりを複数メンバーが担当するチームワーキング(TW)のうまいやり方も見出したい。
・そのためには、担当者相互の、あるいは組織の中での情報の提供と共有が大切だ。このことはあの人しか知らないという得意技占有ではなく、メンバーが入れ替わっても仕事がスムーズに引き継がれ、展開できていくようなシステムを、組織としてつくっていけるようにしたい。
・係同士、メンバー同士で議論せよ。仕事がスケジュールに追われたり、皆が多忙になると、話しかけたり、議論をしたり、悩みを聞いてもらったりという時間がなくなりがちだ。組織の中で、時には組織を超えて、上下を超えて、メンバー相互でもっとまちのことを議論しよう。
(7)自分の仕事を他の仕事につなげろ
・自分の今やっている仕事、今度担当することになった仕事を、どことつなげたらもっと効果が上がるか、もっと楽しくなるかを考えよ。
・例えば福祉部門に声をかけて、一緒に仕事が進められれば、「バリアフリーのまちづくり」が広がる機会となるかもしれない。環境部門と連携が行われると、資源循環型・環境共生型・自然利用型の公共施設づくりが進むかもしれない。産業部門との橋渡しができれば、都市農地のあり方や中心市街地振興などのヒントが増えることもあるだろう。
・他分野との連携化・共同化・総合化を常に仕事の進行の中で考えていきたい。そうすることによってタコ壺に陥ってしまわず、仕事にも広がりやつながりが出てくる。
・ネットワーキングを心がけよう。新しく職場に異動してきたあなたは、いろいろな経験をいくつかの職場でしてきたのだから、元の職場の仕事のやり方のいい面や、そこでの人々のつながりを生かせ。いままでのやり方を吸収・展開させながら、新しい仕事をここで推進すること。それが、「異動」の意味でもある。断ち切らず、つないでいくことが大切だ。(⇒高校野球もつなぎの野球)。
(8)アンテナを敏感にしておけ
・まちで、あるいは自分の仕事を通して得た情報を他の人と共有せよ。自分だけ「極秘情報」を入手して占有しているような気になってはいけない。地元情報、議会情報などは皆の共有物。それを整理し、「まちづくり情報」として皆が知っていくことが、仕事を滑らかに進めていくことにつながる。
・「部長しか知らない」「課長が知っているかも」「係長が情報を下ろしてくれない」といった組織では、情報ネットワークは働かない。組織内の情報開示・共有がまず大切。
・「聞いていない」という返事を私たちはよくするが、これは「私にはそれについて知る努力をしていません」と言っているに等しい。情報とは他人が自分の前に持ってきて、聞かせて下さるものではない。自分で情報をキャッチの努力をしよう。
・自分の担当している業務についての情報だけでなく、地域全体、他の都市の問題もしっかり把握しておく。
・他の自治体の試みや実践からも学ぶことは大切だ。
(9)常に「やる方向」で考えよ
・仕事に取りかかる前から「できません」「ムリです」と言わないで、どうやったらやれるかを考えよ。
・その仕事、新しく担当することになった業務にどんな課題や困難があるか、それをどうやったら乗り越えられるか、「問題の構図」を少し落ち着いて紙に書き出してみると、解決法が見えてくることもある。(私は「魚の骨」か「系統樹」で課題整理)。
・今までのやり方や、自分が今考えている方向では、どうも解決が見出せそうにもなかったら、違った方向からも解決を考えてみる。思わぬやり方が見つかるかもしれない。
・困難な事をやっているということは、まだ誰も取り組んだことのない、前例のない最前線にいるとうことでもある。「やる方向」で地平を拓こう。
・失敗やどうでもいい批判をおそれるな。こうした新しい仕事、パイオニア・ワークは失敗のおそれも伴う。またそのやり方に周りから要らぬ批判が起こることもある。こうしたことを恐れて仕事を「やらない」のではなく、やる気を蓄えてやっていこう。(⇒日下公人、地域づくり=客観条件+やる気)。
(10)失敗・クレーム・紛争から学べ
・自治体の仕事は、窓口で怒鳴られたり、クレームの電話や手紙をもらったりと意気消沈するようなことも多い。しかしクレームとは、自分の仕事を通して供給したつもりのサービスがうまく相手に届かなかったというギャップから生じている。これを他の面から見るならば、「マーケティング・リサーチ」の好機であると言えなくもない。クレームとその内容をしっかり見つめるのが大切だ。仕事を見直すチャンスにもなる。
・その解決の積み重ね、学習が大切だ。誰でも嫌なことは早く忘れたい。早く目の前から去らせたいと思う。一つのクレームが処理されると、やれやれ終わったでおしまいとなってとなって、それを一般化させて事務改善や政策につなげていくことは、充分に行われていないことが多い。クレームの処理の経過や結果をみんなで分析し、そこから施策のヒントを導き出すということまで取り組む余裕を持ちたいものだ。
▼【荻原浩】ここで、荻原浩の『神様から一言』(光文社文庫)を思い出したので紹介しておきます。▼電話クレームの相手には、「まず謝る。二つはどんな話だろうが最初は辛抱強く聞く。あいづちはこまめに。三つは聞き手は熱くならない。冷静に。何を聞いてもヘイヘイホー。次は、こちらが喋る番だが、まず相手の電話に感謝すること。貴重な意見をありがとうございます。ヘイヘイホーってね。責任者に替われって言われても、簡単に替わるな。自分が責任者であるという態度で接する。でも責任をとると言ったらいかん。責任をもって伝えます。こう言う。責任持てるのは、あくまでも伝えるってことだけ。ここ、ポイントな、メモしとき。とにかく基本はあくまでも低姿勢だよ。電話口でお辞儀をする。声の質が違ってくる」。▼クレーム相手の謝罪訪問の場合は、「向こうさんの家に着いたら、まず第一声は『申し訳ございません』だ。ほんで、お辞儀。こちらの落ち度に合わせて角度を変える。うちに責任のないお門違いのクレームでも、とりあえず四十五度。五分五分なら九十度。全面的に非がありそうな場合は九十度以上。限界まで腰を折る。そう、膝に額をぶつけるつもりでね。うちが全面的に悪くて、なおかつ賠償だの告訴だの世間へ公表するだの、やばい状況になってる場合は、さらにそれ以上だ」「それ以上って」「土下座だよ」。
(11)職場のよい人間関係をつくろう
・仕事を通して「やる気」を皆でつくり出していこう。職場の上下関係、経験の長短などを超えて、皆で仕事に取り組んでいく職場風土、人間関係をつくっていこう。
・一人の経験を皆のものに。一人の職員が他自治体へ研修に行っていい話を聞いてきたり、個人の旅行で面白い体験をしてきたら、短時間で、そして飲みながらでもよいから、皆で一つの話を聞く機会を職場の中でも増やしたい。一人の小さな体験が皆に伝わっていけば、皆で仕事をこなしていくつながりも、少しずつ作られてゆく。(⇒下河辺淳、縄のれんは研修の場でもあった)。
・仲間をつくろう。友情を育もう。職場は市民から負託された業務を無駄なく的確に執行する場ではあるが、そこには組織があり構成員である自治体職員がいる。その一人ひとりが、お互いを信頼し合い尊敬しあって仕事が行われていったら素晴らしい。仕事を通して仲間を増やしていこう。友情を培っていこう。
・職場の中だけの「閉鎖集団」や「○○族」などになっていかないで、外とのつながりも広げていこう。他の自治体の職員、アジアや世界の人々とも豊かな交流と連携が始まっていくとよい。様々な自治体との交流がそれぞれの自治体を豊かにしていくことにもつながっていく。
(12)仕事は元気に面白くやろう
・自分が仕事をつまらなくやっていては、仕事の面白さや醍醐味などは出てこない。困難な仕事の中にも面白さを見出して、その面白さを周りに広げて仕事を進めよう。
・楽しんで仕事をする、新しい自治体のワークスタイルを生み出していこう。
・健康第一、家族円満、仕事推進。家族・仲間ともども元気でいろいろやっていこう!
▼いまさら書き連ねるまでもない、当り前の十二項目だが、こんなことを職場で共有しながらやっていければと願ってのことである。「自治体プランナー」が軽やかなフットワークで、信頼感に満ちたチームワークに支えられて、豊かなネットワークを広げながら各地でまちづくりを進めていくと、地域や地球はもっと面白く、もっと豊かになっていくに違いない。
5.プランナーの資質と宿命
▼地域づくりや都市づくりに携わり、プランナーたらんとする者にはどのような資質が必要とされるのだろうか。かつて吉阪隆正(1917-1980、建築家、コルビジェに師事)は「二十一世紀に急速に充実せねばならない分野と人」という論考の中で次のように述べている。「少なくとも楽天家であり、人の善意を信じられるもので、秩序とか平衡には鋭い執着を持ち、広くなにごとにも興味を持つが、特にものの姿や形の中に美を見出すことを喜び、その記憶力があり、その再現に情熱を感じるといったものではないかと思う」。プランナーとは、外野席に座っている観客ではなく、また批評家でもなく、現実的実務家である。そのためのいくつかの資質が要求される。
①好奇心/ものごと、特に地域や都市に起こっている様々な事象がなぜ今、そのように目の前にあるのか、その原因や理由は何か、他ではこんなことは起きていないのか、それがどのように変容していくだろうか、など次々と考えたくなったりするとよい。
②現地主義/次にそれを確かめ、それが起こっているところへ行って、自分の眼で実際に見てみたいと思うこと、それに向けて行動することが必要だ。「フィールドワーク」とも言うが、まず現場に身を置いて、そこを見てまわり、そこの声を聞く。そこにはコンピュータでは得られない多くの学びの種がある。(⇒コロンボ刑事の捜査手法ですね、現場に手掛かりがある)。
③発見的方法/これまた吉阪隆正の言葉だが、「現地を歩くだけでなく、現地を歩くことでそこの課題や可能性や素晴らしさを発見する力を持つこと。単なるタウンウォッチングではなく、まちを熟視することを通してその奥にある課題を見つけ出す」ことを「発見的方法」と名づけている。
④施策化する/現地を歩き、そこで見つけてきたことを提案としてまとめ、施策化していく力が必要だ。プランナーたらんとするなら、自らが発見した課題を整理・熟慮して、解決案として、あるいは将来イメージとして提案する段階まで終えねばならない。現実を次のステップまで引き上げる提案ができる力を養っていくことが必要だ。(⇒住み込みプランナーとして村瀬章氏が実践)。
▼【中間管理職】。ちょっとここで、息抜きに「自治体の中間管理職」の話をしましょう。▼工場生産のようなライン労働は仕事のオン・オフが明確だが、企画・営業のようなスタッフ労働は不明確でどこまで勤務かわからないグレイゾーンが多い。どのタイプの組織でも中間管理職には三つの役割がある。一つ目は情報を伝える「伝達」、二つ目は「中間的意思決定」、三つ目は仕事や人間関係の「調整」である。一つ目と二つ目だけでメシを食っていた管理職は、イントラネットなどの組織内情報機器の普及によって立場が薄められている。反面、三つ目の調整はますます求められている。日本では「縄のれん」でのネマワシが調整の主流だが、今ではこのやり方は若者が嫌う。また、仕事のトレーニングいわゆる「研修」はどこかに泊り込むことが多いが、実はOJTが一番である。仕事の企画力・推進力は、日々実際の仕事から獲得されるとするものでOn The Job Trainingのこと。つまり昼間の仕事の中でマネジメントする管理職が爽やかなのではないか。管理職は「縦の出世」というより「横の出世」も視野に入れないと拙い。つまり仕事バリバリだけでなく、仕事外での仲間づくりや趣味で余裕綽々でないと人間魅力が不足することになる。「日経新聞」に目をとおすだけでなく、毎日の「生活文化」を磨かないと生き抜けない。さて、中間管理職にとって仕事と仕事に関わる人間関係の調整は利害が相半ばしてヤッカイだけど、これは避けられない。仕事仲間は中間管理職の動きを見ているし、中間管理職は仕事仲間の動きを見ている。「相互監視」なのです。決定は中間管理職であっても決定に至る過程は全員合議制による調整です。手続きを省いていては人も組織も動きません。中間管理職は調整の世界で泥まみれなのです。ということは邪魔な存在だが必要な存在とも言えるのかもしれません。しかし最後の「決断」のところでトップのリーダーシップがどの組織でも弱まっています。今世紀も決断不足、リーダー不在は続きそうですが、どうなることか。
6.町づくりをみんなの手で!
▼生態的循環に基づいた都市づくり・地域づくり(エコシティ)へむけて、持続型・循環型・総合型まちづくりをめざそう。(⇒旧ソ連のエコポリス構想、アジアのアグリポリス構想を想起)。
①持続型(sustainability)であること/自然の保全と都市の開発のバランスが保たれ、事前に環境の修復・育成・保全が人々の手によって持続的に行われること。また都市の歴史的な環境や建物も維持・保全・再利用され、次の世代へ引き継がれていく。次の世代の市民である子供たちに対しては、実践的な地域学習や環境学習が体系的に提供され、「まちをつくる力」を持続的に蓄えるプログラムが用意される。
②循環型(recycle)であること/都市生活の様々な活動を支える生産・流通・消費・廃棄などに使われる物資やエネルギーをできるだけ少なく、無駄なく抑え、それらをリサイクルさせる。地域社会の中で小さな循環の輪を多層につくることが大切で、その小さな単位の中での小さなサイクルが次のサイクルとつながり、次の単位のサブシステムをつくっていく。まちづくりや施設づくりにおいても、太陽(熱・光)・風・雨水・地下水・地熱・植物などとの循環が考えられ、農林水産業などの自然依拠産業と都市住民とのつながりも深まる。
③総合的(total)であること/暮らしと労働、生産と消費、都市と農村、開発と保全など、二極に分化してしまった結果として地域社会や家族や個人までもが分断されてしまった。これらをいま一度束ね直し、そして総合的に体系づけて、地域社会の人々の絆を編み直していく。分断・分化・分解を総合・統合に向けていきたい。まちづくりにおいても、施設を単発で建設したり、各事業者がバラバラに担当業務を行うのではなく、まちづくりの総合的な目標やプログラムに沿ってマネジメントを行う。市民、NPO、事業者、自治体も連携して活動ができる総合的な仕組みを持つ。「町づくりをみんなの手で!」ということです。
7.やってみよう会議の方法序説
▼会議は一般的に、三回がシキタリとなっているようです。予め案を作り、会議に参加させた関係者に情報を与え、意見を言わせることによって、彼らを特定のコトへの取り込みは、三回開催すると何となく出来あがる。まず初回の会議は趣旨や目標の説明、計画手順提示、基礎資料の配布と若干の意見交換。二回目は方針や方向、次いで案の骨格を示し、自由討議。三回目はそれらの会議録と作成資料を使い、最終案としてまとめる。さて、会議ににも少しばかりの工夫・操縦は要る。会議の道具は、資料の他に名簿と毎回の出欠票および名札を机に並べること。参加者を大事に扱うことを形で示す。一回目に情報・資料を長々開陳すると雰囲気が萎えますので、平板的な説明でなくマトを絞って話すこと。資料は手元資料ばかりでなく、ウォールサイズの図面・イラスト・スライドで情報の共有化を迫る。▼また、最後の「箱飯」を黙々と食べるのは参加者皆がゲンナリしている筈。せめて会議通知の往復はがきに出前メニューを書き、○印をつけてもらい出前する気配りがあれば見事。しかし殆どの会議は工夫もなく味気なく会議が進められ、日本の会社や役所が合意づくりと意思決定をしていきます。不満は縄のれんでブスブスと不燃焼爆発です。身近な「町づくり」もこのような会議で進められるとしたら、もっと何か工夫が要るでしょう。
8.やってみようワークショップ
▼共同思考・共同作業による共同作品がまちづくりです。市民・行政・専門家がまちづくりを思考する場での合意形成の方法としてワークショップがあります。問題点を整理したり企画を立てる作業には、従来は「ブレーンストーミング」(自由な発言でアイデアを引き出す集団的思考法)や、KJ法(ボンヤリした意見を一枚の紙に書き出し問題構造をグループ化しながら体系化)、今ではノミナル(名前)・グループ・プロセス法(テーマのハッキリした問題に具体的な意見を出し優先順位をつける)などがあります。▼私は自分流で、「魚の骨」という方法をやっています。食べ終わった魚の骨を思い浮かべてください。骨の上方に事実(状況分析)を、骨の下方に方策(手立て)を書き、頭のところに政策や目標を書き込むやり方です。一人相撲のときに向いています。
▼さて、演劇から始まったとされるワークショップを一般的な事例での手順を見ると、まず話題共通化のための映像や資料提示と説明、自己紹介(名前・出身地・好きな物)、小グループ編成(車座で各発言と課題整理)、全体発表(提言と集約)、最後に参加者一人づつ輪の中央に出て「自己宣言」という具合です。どんなワークショップでも進行役の役割はとても大事です。①話題や情報を分かりやすく、②話し合いの成果を図で視覚化し、③一定の方向を見出す。さらに進行役は図化に特別の工夫を必要とします。①箇条書き型(意見のポイントをハッキリさせる)、②テーブル型(着席順に吹き出しで発言内容を書く)、③グルーピング型(意見をグループ毎に記録)、④ノミナル・グループ・プロセス型(最初にブレーンストーミングで様々なアイデアを求めてそれを順番に記入し、その後それぞれの検討評価をして優先順位をつける)、⑤まんだら絵図型(円を何重か描いた紙を貼りだし、外側の環には思いつきやアイデア、二番目の環には少しまとまったイメージを記録し、中央には最も大事な考え方を書き込む)、⑥マトリックス型(縦に評価軸、横に案を並べた表にもとづき、その中に意見を書き込む)、⑦スケジュール型(今までの活動を振り返る、あるいはこれからの活動計画を練る場合にスケジュール表を張り出し、意見を書き込む)、⑧図面記入型(プラン拡大図に意見やアイデアを書き込む)のいずれかを組み合わせて会議を進めます。
▼会議のプロセスは、「情報共有、拡散、混沌、収束」の四段階を基本とします。その昔は弁証法といってました。ワークショップの小道具としてはチラシの裏や模造紙、マーカー、ポストイット、デジカメの活用があります。思考作業の増幅のため、写真取材、インタビュー、アンケート、スケッチ、ウォッチングなどを取り入れることもあります。ワークショップはまちづくりばかりでなく、仲間とこれからの老後生活を俎板にのせてやり合うのもいいですね。その時はまんだら絵図型がいいかも知れません。世田谷のまちづくりとワークショップの動きについては、世田谷まちづくりセンター『参加のデザイン道具箱1・2・3』と中野民夫『ワークショップ』(岩波新書)がある。
8.資料編
▼書籍資料/原昭夫『自治体まちづくり-まちづくりをみんなの手で』(学芸出版社)。
▼印刷資料/「まちづくりプランナー12則」。
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