2009年8月11日火曜日

まち美学5

▼記憶に残る空間。ケビン・リンチは『都市のイメージ』で、イメージの構成要素は、パス(路地)、エッジ(縁)、デストリク(地区)ト、ノード(結節)、ランドマーク(目印)の五つを挙げている。奥野健夫は『文学の原風景』で、作家も自己形成空間としての「原風景」についてふれ、「生まれてから七、八歳頃までの田舎の家や遊び場や家族や友達などの環境によって無意識のうちに、土着性の強い原風景が形成される」とする。作家でいえば、太宰治の津軽、坂口安吾の新潟、室生犀星の加賀金沢、佐藤春雄の紀州熊野のような風土性豊かな自己形成空間の中で、強烈な原風景をもった人々には、それが文学の原点にもなり作品に表れてくる。一方、三島由紀夫は、自己形成期に自然や風景を知らなかったが、日本の古典や西洋の小説で架空の原風景をつくりあげたという。彼が松を指してあれは何という木かとドナルド・キーンに尋ねたとう挿話がある。▼都市の居住環境で、重要な人間形成期に必要として考えられるものは、大樹である。大樹には多年の風雪に耐えて樹齢を重ねてきたある種の威厳や気品のようなものがあり、また多年同一の場所に停止しながら生存していることから、沈着、忍耐、不羈のような特性やら、動物のような自ら行動できない植物の宿命としての、受容性、客観性のようものを感ずる。▼まず、第一に、「街並みの美学」を成立させるためには、「内部」と「外部」の空間領域について、はっきりとした領域意識をもつことである。すなわち、自分の家の外までを「内部化」して考えられること、あるいは、自分の家の中までを「外部化」して考えられること、二つの領域について空間を同視して考えられること、または、空間を統一して考えられることが肝要である。▼建築基準法第65条では、防火地域または準防火地域で外壁が耐火構造なら、その外壁を隣地境界に接して設けることができるが、普通の住宅地においては、民法第234条によって境界線より50センチ以上離すことが必要である。そこで民法を改正して、コート・ハウスやテラス・ハウスのようにパーティ・ウォール(境界の壁を共有)を建て、この隣地境界線の両側に空いた50センチずつを道路側にもっていって、道路沿いに1メートルの前庭をつくってみる。前面道路内部化である。塀はこの1メートル以内には建てないようにすれば、住宅地は見違えるようになる。▼また、大学、植物園など巨大な公共空間においては、道路沿いに直に塀を建てず、5~10メートル後退させ、そこを芝生・花壇・ベンチ・屋外照明などを設け、緑の遊歩道とする。さらに、電柱の地中化で第二次輪郭線を減少させたり、路上に置かれるもの(街灯、ベンチ、くずかご、標識、案内板、郵便ポスト、公衆電話など)の第二次輪郭線に影響のあるものを、景観上すっきりしたデザインとして「街並みの美学」に貢献してもらう。▼日本でも、まだやれることはある。八月十一日(火)

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