2010年5月21日金曜日

須賀敦子の歩いた道を

『世界は分けてもわからない』(福岡伸一・講談社現代新書)から。▼彼女の文章には幾何学的な美がある。柔らかな語り口の中に、情景と情念と論理が秩序をもって配置されている。その秩序が織りなす文様が美しいのだ。ことさら惹かれたのは、本を書くに至るまで彼女がずっと長い時を待っていたのだという事実だった。幾何学を可能にしたのは彼女の人生の時間である。彼女の認識の旅路そのものである。彼女の本を読むにつれ、そのたたずまいに引きこまれていった。彼女の歩いた道を彼女が歩いたように歩いてみたかった。彼女が考えたように、自らの来し方を考えてみたかった。彼女が静かに待ったように、私も何かが満ちるのを待ってみたかった。その何かを知りたくて彼女の文章を何度も読んだ。そしてますます彼女への想いが深まった。(100521)

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