2008年11月17日月曜日
粘菌クマグス
『クマグスの森・南方熊楠の見た宇宙』(松居竜五・とんぼの本/新潮社)から。▼熊楠は、生物を個別の現象としてではなく全体として理解しようとしていた。「諸草木相互の関係ははなはだ密接錯雑致し、近ごろはエコロギーと申し、この相互の関係を研究する特種専門の学問さえ出て来たりおることに御座候(川村竹治宛書簡、1911年11月19日付)」と書く熊楠は、生態系という新しい概念をきわめて正確にとらえ、日本で初めて本格的に生態学を取り上げることにつながった。▼熊楠の神道とはタブーの体系であるという考え方は、神社合祀反対運動の理論的な背景となった。小さな神社や祠こそが、そのまわりに人間がタブーによって立ち入ることのできない神の領域を作り出し、結果的に人の手が入らない「神林」を作り上げ、自然と人間の関係を調和させていると熊楠はいう。▼和漢三才図会を筆写し、毘沙門天の申し子と言われた少年時代。フロリダ、キューバを放浪、孫文と交わり、殴打事件を起こす外遊時代。帰朝後も、神社合祀反対運動、ミナカテルラ菌の発見、昭和天皇への御進講などエピソードは途方もない。▼このクマグス案内に『森のバロック』(中沢新一・講談社学術文庫)はどうだろうか。十一月十七二日(月)
2008年11月9日日曜日
美人投票の経済
『閉塞経済』(金子勝・ちくま新書)から。▼どの経済学の教科書にもバブルは正面から取り上げていないが、ケインズだけは『一般理論』のなかで「美人投票論」を提起している。たとえば美人投票をやって、一位の人に投票した人には何か懸賞が当たるとします。すると、自分の好みの美人に投票するわけではなく、「みんなが美人だと思う人」に投票するようになる。つまり、「この人ならみんなが美人だと思うだろう」という予測のもとに、その人に投票するので、票が集中するのです。美人を株や土地に置き換えると、「みんなが土地や株の値段が上がるだろう」と思うと、そこに向かってみんながお金を投資する。すると、みんながお金を投資してそれを買おうとするから、価格がますます上がってもうかるので、ますます土地や株の需要が増える。▼バブルが繰り返される理路と、マクロ経済をよく理解させてもらえる書です。十一月九日(日)
2008年11月3日月曜日
壊れるアフリカ
『アフリカ・レポート』(松本仁一・岩波新書)から。▼指導者は、「敵」をつくり出すことで自分への不満をすりかえる。アフリカでよくみかける構図だ。ルワンダの大虐殺もジンバブエの経済崩壊も、そうして起きた。ルワンダはフツ族85%、ツチ族15%。で、1973年にフツ族の国防大臣がクーデターで政権を握ると、絶対多数を背景に独裁を続ける。90年代に入り政府有力者の腐敗に不満が高まる。それに対し政権側はラジオなどで「悪いのはわれわれではない、ツチだ」とする宣伝を開始。大統領の飛行機が何者かに撃墜されると、宣伝にあおられた部族憎悪が一気に噴き出し、大虐殺につながった。ジンバブエでも「1300万人の国民は苦しい生活を続けているが、見てみろ、人口の1%にも満たない白人が全農地の20%を所有し、あんな裕福な生活を楽しんでいる。お前たちが苦しいのは政府のせいじゃない、あいつらのせいだ」と宣伝・扇動した。ムカベ政権は、白人農場を接取したが、その農場から大量の失業者を生み出し、経済は崩壊した。▼アフリカは多部族国家がほとんどだ。選挙は出身部族の人口比で決まってしまう。国益より部族益が優先される。ジンバブエのムガベ大統領は人口8割を占めるショナ族の出身だ。ショナ族に有利な政策をとっていれば選挙に敗れることもない。政権は長期化し、腐敗する。国づくりは放置され、指導者が私物化した巨額の公金は海外の銀行に蓄財され、国内の市場に出回らない。蓄財した金が社会資本として回転しないため、経済の進展もない。さらに利権を握るグループと、排除されたグループとの対立が激化する。2007年末のケニアの大統領選挙では、それが部族間憎悪となり、殺し合いにまで発展した。▼現代アフリカの最大の問題は、先進国の無関心や、当事者国の累積債務などではない。「公の欠如」なのだ。それが部族対立、民族対立を生み出している。水や電力、警官や教師の確保といった公共政策に向かわない、このことが問題なのだ。▼中国には2億人の余剰労働者があふれ、国外脱出をうかがっている。しかも、入り込む余地のない先進国でなく、政府が自国の経済を保護しようとしていないアフリカに向かって流れ込んでいる。それにアフリカの中国人は商売がうまい。黒人商人は、売れ筋をつかんだ場合でも、在庫が切れるまで注文しない。次の商品が届くまで時間があき、売れ筋が変わってしまう。決定的なのは、商品を安く仕入れるルートをもっていないことだ。中国本土の生産現場と直結する中国人卸商とは、はじめから大きな違いがある。卸売りの分野では、中国商人の天下は続くだろう。▼アフリカの指導者たちは、勤勉な勤労者を育てるよりも、利権目当てで外国企業の進出を優先させた。中国商人も入り込んできた。国家指導者がうまい汁を吸っている間に、アフリカの富は国民に行きわたることなく、他者に奪われていく。▼壊れていくアフリカであるが、光るものもある。ジンバブエの農業NGO「ORAP」である。農業の事業資金は政府に頼らず、自分たちで稼ぎ出し、生産と販路を決定していく。その事業方式は隣国にも影響を与え始めた。十一月三日(月)
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